アイキャッチ ハイネケン

ちょっと涼しくなってきましたね。皆様、風邪をひかないようにご注意を!

本日は三畑幾良が担当させて頂き、突発・実話系・掌編小説をご覧頂きます。こんな話なので、先週の記事で連載宣言したものとは別ということでお願いします。

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 『パーティーで不思議』

 師走の喧騒の中で、私達の宴の賑やかさは際立っていた。
 私の所属するT大空手道部はその年も良い戦果を挙げており、その日はOB・OGが祝勝会を開いて下さったのだ。

 幹部学年の四年生として部に関わってきた私の隣には、祖父と同じくらいの年齢のOBが座っていた。
 もしかすると半世紀以上の隔たりがあるかもしれないOBの話をにこやかに聞き、適切なタイミングで酒を注ぐのが私達現役選手の主な仕事だった。何故なら、この祝勝会はOBの奢りだからだ。

 注文していた酒を店員がテーブルの端に置いていく。色とりどりの酒が入ったグラスや徳利が並んだ。
 どうせなら一人ひとりの前に置いていってくれれば良いのにと思ったが、安い居酒屋であるからそこまでを望むのは酷だろうと思い直した。

 既に赤ら顔で上機嫌に稽古の思い出話をするOBのお猪口は、空になっている。私は先程の店員が置いていった徳利に手を伸ばした。
 徳利の首の部分を摘んで、反射的に手を離す。とても熱かったのだ。思い返してみれば、先程注文したのは確かに熱燗だった。
 私は自分のおしぼりを開き、鍋つかみのように使って徳利を手に持った。

「先輩」
 タイミングを見計らって声をかけるとOBは話を止めた。
「お注ぎします」
 おしぼりごしに徳利を持って酒を注ぐのは、作法としては褒められたものではないのかもしれないが、幸いOBはそのようなことは気にせず、機嫌よく私に向かってお猪口を私の方に差し出した。

 私は酒を注いだ。

 OBは注がれた酒を口に含み、飲み込んでから、怪訝な顔をした。

「俺、冷やじゃなくって、熱燗頼んだよなあ?」

 私はテーブルに置いた徳利の首をつまんでみる。やはり熱い。
 OBは、その徳利の胴体に指を当てた。

「間違って冷や酒を持ってきたのか」
「えっ? 熱燗ですよ」

 熱燗の徳利に、冷酒が入ってくる。
 同じ酒が、私には熱燗であり、OBには冷や酒である。
 そんなことがあるものだろうか。

 向こうの方のテーブルがどっと沸いた。宴はいよいよ盛況である。
 その中で、祖父のような年のOBと私はふたり、顔を見合わせていた。

 T大空手部のパーティーでは、不思議が起こる。



 ……起こるわけないだろう。

 この安さの居酒屋に湯で燗をせよなどとは望まないが、しかし。

 首だけ温まった徳利を熱燗として持ってくるのはやめてほしい。せめて胴体に触って温度を確認してくれるくらいのことはしてくれても良いだろう。

 私は手を軽く上げ、店員を呼んだ。

「すいません、これ、チンしなおしていただけますか?」


(燗、或いは完)

*****

ちょっと涼しくなるとすぐに、温かいお酒が飲みたくなります。電子レンジでいい感じにお燗するのって難しいですよね。

お後がよろしいようで。

 

(三畑幾良)

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