本記事は「しん宇宙Vol.02 特集オカルト」に掲載された「戦慄怪奇ファイル コワすぎ」の完結記念企画「コワすぎ考」という「ネタバレ上等」で色々なライターに「コワすぎ」について書いてもらったもの一つです。コワすぎに限らず、白石晃士作品のネタバレが多分に含まれているので、まだ見てない人は注意してください。

コワすぎ考 -
「『オカルト』から『コワすぎ』へ」- 白石晃士における邪神崇拝または殺害信仰の遍歴。あるいは宇野祥平がいかにして殺人によって世界を凌駕したか。

 

「オカルト」の中の道徳観

コワすぎ最終章に登場する謎の男「江野祥平」の初登場は「オカルト」という映画からだ。
この「オカルト」は、当時大ニュースとなった秋葉原通り魔殺人事件を彷彿とさせる通り魔殺人事件や、日雇い労働といった社会現象を取り扱ったフェイクドキュメンタリーであり、観るものに強烈なインパクトを残すモキュメント映画に仕上がっている。
ネットカフェ難民である主人公、江野祥平は、神から「自爆、殺戮、渋谷交差点」というメッセージを受け取り、その言葉通りに自爆テロを行って、地獄のような異世界に飛ばされてしまう
「オカルト」には「犯罪者が地獄に落ちる」という多くの宗教や神話が持っている、野太いストレートな物語構造がある。作品的には「殺人は悪」という道徳的なメッセージ性を持っていたので、わたしは白石監督は犯罪を刺激するような映画を作っている自覚があるから、こういった「犯罪をしちゃダメだよ」というなラストにしたのだと思っていた。
けれども、どうやら違うようだ。

 

「殺人ワークショップ」における殺人

この「オカルト」と同じ「殺人」をテーマで作られた作品が白石作品の中にはいくつかある。
「殺人ワークショップ」もそのひとつだ。
この作品では、「オカルト」のラストで異界に飛ばされたはず江野祥平が「人を殺すワークショップの講師」として登場し、参加者に人殺しの仕方を教える怪人として登場する。
江野祥平自体は完全に狂人、あるいは人ならざるものとして描かれていて、殺人については否定的にも肯定的にも描かれている。しかし、「オカルト」のときのような全否定ではない。

 

「オカルト」と真逆の「ある優しき殺人者の記録」

次に殺人をテーマにした作品は「ある優しき殺人者の記録」になる。
こちらは江野祥平は登場しないものの、代わりに「コワすぎ」カメラマン田代が登場する。
「27人の人間を殺害すると、事故で死んだ幼馴染と、殺した27人が復活する」という神の声を聞き、大量殺人を実行する物語であり、そこだけ見れば「オカルト」とほぼ同じである。
「オカルト」と決定的に違うのは、最後の最後に本当に神が現れ、ハッピーエンドのように物語が終わることにある。
「オカルト」では邪神に騙されてバッドエンドのように終わったが、「ある優しき殺人者の記録」では明らかに同じような形をした神様なのに関わらず、主人公の願いを叶えてハッピーエンドになっているのだ。
わたしは「ある優しき殺人者の記録」を映画館で見終わったとき、内容よりも、そのエンディングにびっくりしてしまった。この映画は間違いなく「オカルト」を意識した内容でありつつ、カメラマンの田代が登場していることを考えると「コワすぎ」とも繋がっている世界観。それでいて「オカルト」とは別のことをやっている。

 

オカルトのエンディングの本当の意味とは

ここでわたしは一つの仮説を立てた「オカルト」に出てきた「ヒルコ」という邪神は、人間に”声”を送り、妙ヶ崎通り魔事件や、渋谷駅前爆破事件を起こした邪神ではあるが、人にデメリットを与えるだけの存在ではないという説である。
つまり「オカルト」は壮絶なバッドエンドのように見えるけど、実はそうじゃない可能性があるということだ。

そして、それを完全に裏付けたのが、江野祥平が再び登場する「コワすぎ最終章」だ。
ここでは江野祥平は完全に魔法使いのような立ち位置で、カメラマン田代に人を殺す指示を出して、異次元にいってしまった工藤たちをこの世に呼び戻し、未来を変える案内役を務める。
そのときに「やったらあかんこと」ことをやって、世界に干渉し、世の中を変えることができるとはっきり述べて、実際に世界の流れを大きく変えることに成功している。
つまり、「オカルト」はバッドエンドではなく、江野祥平が儀式を成功させて、自身をパワーアップさせたというラストだったことが、「コワすぎ最終章」を見てはじめてわかるようになってる。
これはある意味、自身の作った映画のラストの解釈を変えるために、映画3作品分を使った、という風にもとれる。これにはちょっと呆れながらも、感動して泣いてしまった。

 

運命に逆らったら、バッドエンドじゃなくなった

「オカルト」は誰がみても後味の悪いバッドエンドの映画だ。そして、「コワすぎ」のテーマは「運命に逆らえ!」だ。もしかしたら、粘り強く作品を撮って、続けていけば、それのバッドエンドすらハッピーエンドに塗り替えられる、ということを監督は主張したかったのかもしれない。

しかし、「コワすぎ」で泣くことになるとは思ってもみなかった! いい物語をありがとうございます。というお礼でわたしの「コワすぎ考」を締めくくりたいと思う。
超コワすぎで、どういった展開になっていくか楽しみだ。

他の「コワすぎ考」がみたい人は、「しん宇宙VOL02」をぜひどうぞ。

しん宇宙Vol.2: 特集オカルト (めさき出版)

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