モグリネズミ

モグリネズミ  青島龍鳴

 

 

私はネズミ取り屋であった。
ネズミ取り、といっても一般的なネズミのことではない。“モグリネズミ”という、凶悪な害獣を専門とする。

モグリネズミは生物学上ではモグラに属する。しかし、地面には潜らない。
例えば畳の表面を食い破って、イグサを食い荒らしながら結構な速度で移動する。
私はそれを隅に追い込んで、チラッと顔などがはみ出たところを指でつまんでは引きずり出す。
空気中に出せばまったく貧弱な生き物である。食い破り潜り移動することに特化するあまり手足が退化しているため、鋭い牙に気を遣いながらプチトマト大の体を指で握り潰し、グロテスクな内臓と未消化物の塊にすることはそう難しくはない。

たいていの仕事は、指にぬめりつく気色悪さにさえ慣れれば、比較的ラクな職といえた。
小動物をプチッと破裂させて汚物に変える作業に、いつしかサディスティックな快感さえおぼえるようになっていた。


ただ一つ、最悪なケースが存在する。
畳に潜って台なしにする程度なら、“凶悪な害獣”などと言われたりしない。

人体に潜ってしまうケースもあるが故に、怪物のように恐れられているのだ。
私のような業者が容赦なく屠殺したところで、非難された前例すらない。
人体を食い破るスピードは、規格外に早い。皮膚を食い破られて数秒以内でなければ、希望はほとんどない。
外科医と連携したこともあるが、致命的な器官に入り込む前にモグリネズミを排除し、人命を救えたケースは稀だ。
つがいで入られて、体内が多数のネズミの巣にされるという、目も当てられない悲劇もあった。

モグリネズミはたいていは灰色をしているが、茶色い個体も見たことがある。病気にかかって緑色になったものは、体液まで緑だった。

牙を抜けばペットにできないか?と考えたこともあった。
しかし、絵に書いたような凶悪なツラをしている上に、空気中に長く置くとストレス死してしまう。
第一、数々の人命を奪った凶猛なイメージからして、愛玩する変態もいないだろう。


この仕事に危険を感じたことはあった。

指が滑った拍子に手首に潜りこまれ、慌てて引きずり出したことも一度や二度ではない。指では捕らえられず、歯で噛み付いて取り除いたこともあった。

ある日のこと、右側の尻と腿の間に違和感をおぼえた。まさかと思い指で弄ると、やっぱりモグリネズミが入っていた。
しかも、同じ日に三匹もの個体を、まったく同じ場所から引きずり出したのだ。

“これだけ出てくるというのは、まさか…”
“これから潜りこまれてるのではない…?”
“まさか、巣にされた……?”

頭に過る最悪の想像を、私は頑として否定した。
事実を認める頃には、私は多量に吐血していた……

〈了〉

 

 

 

【ライター紹介】

青島龍鳴 男性

電子書籍を中心に執筆活動中。
既刊本に「But the world is beautiul」「眠太郎懺悔録」シリーズなど。

めさき出版SNSにて活動中。

独特の味わいをもつ文体だけでなく、ガラケーで小説を丸々書き切るなど、多分に個性的な一面を持つ。

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