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我々は時に、固く閉ざされた氷雪の中で、時を越えた再開を果たすことがある。

例えば、アンデス山脈の山頂に眠る少女のミイラ

彼女たちは数百年間ものあいだ、ほぼ原形を留めたまま冷凍保存され、皮膚や髪だけではなく、心臓や肺に血液まで残っているのだ。

そして永久凍土から発見される、40,000年前のマンモスの遺体。

これらは自然が気まぐれで与えてくれた、生命の進化や気候・文化を探る上での貴重な資料。極地より届く発見の知らせは、科学者のみならずニュースを目にする我々にとっても胸躍る果報と言えよう。

その一方で、人間とは実に業の深いもので、これらの奇跡を我が手によって再現・利用しようとしている団体が存在するのをご存じだろうか。

本日は米国・アリゾナ州を拠点に活動する、「アルコー延命財団」について考察する。

「アルコー延命財団」とは、人体の冷凍保存(クライオニクス)の研究、実行を目的とした非営利団体である。

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メンバー登録している人物の死期が近いと連絡を受けると、スタッフが自宅など本人の傍らに待機し、医師の死亡宣告を以て冷凍保存のプロセスが開始される。これは、保存過程の性質上、死後に連絡していては間に合わないためである。

まず遺体は氷水に全身を浸され、人工呼吸装置によって心臓と肺の運動、血液の循環、呼吸が人工的に行われる(意識が回復するわけではなく、またそれを確認する術もない)。そして体内には静脈などにあらゆる抑制剤と麻酔薬が注入され、臓器や脳の保存が図られる。その間、同時進行的に死後数分の間に体温を数度にまで低下させ、身体の保全を図る。この状態で遺体は専用の容器に移され、財団施設まで送られる。

施設到着後、体内の血液を全て抜かれ、保存液が体内に循環するよう注入される。最終的に液体窒素により-196℃に保たれ、(財団、故人の主張では蘇生されるまで)半永久的に施設内に保存されることとなる。(Wikipediaより)

以上がアルコー延命財団による、冷凍処置の過程である。

「意識が回復するわけではなく、またそれを確認する術もない」という一文からしても、冷凍される人間の人権はどうなっているのか。遺体は単なるモノにすぎないのか?と身の毛もよだつ思いのする筆者であるが、問題は倫理上のものだけではないようだ。

打撃の神様と呼ばれた米国のメジャーリーガー、テッド・ウィリアムズもまた、アルコー延命財団により冷凍保存されている一人なのだが、冷凍保存という選択をするにあたり、身内内で骨肉の争いが起きている。

長男のジョン(テッドの3番目の妻との子)はテッドの葬儀も埋葬も行わずに冷凍保存を決行。これに長女のボビージョー(テッドの最初の妻との子)が猛反発し、裁判所にジョンを訴えた。

裁判では、多額の負債を抱えていたジョンテッドのDNAを売ろうとしているのではないか、という疑惑も浮上し、姉弟(きょうだい)の仲は更に悪化。

結局、テッドの頭部と胴体を切り離し、頭部は引き続き保存・胴体は海へ散骨、という判決が下される。

なお、ジョンは数ヵ月後に急性白血病により死去。本人の希望により、父親と同じく冷凍保存されたというから、何ともいたたまれない話ではないか。

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そして人体冷凍保存にまつわる問題は、冷凍に至る過程やアルコー延命財団に対する数々の訴訟のみではないと筆者は考える。

上記にもあげたように、これらのプロジェクトには“冷凍される側”の意思が反映されにくいと言えないだろうか?

遺族(?)は命が尽きようとする家族に対し、「まだ生きて欲しい」「いつか再開を果たしたい」と思う気持ちは理解できる。冷凍保存されている人の中には、2歳の女の子もいるのだ。彼女を冷凍保存した両親の気持ちを思えば、彼女がどれだけ愛されていたのかが解る。

しかしここで、1つの疑問が念頭に浮かぶ。

彼女たちはいつまで“保存”されるのか?

もし彼女たちが目覚めた時、周囲の風景が一変していたら?

両親や家族・知り合いがことごとくいなくなっていたら?

冷凍保存された人々の中には、自分からそうなることを望んだ人もいるだろうが、少なくとも2歳の女の子には、自分が置かれる状況などよく理解出来なかっただろう。

彼女が目覚めた時、両親の強い意思や愛は伝えられるだろうが、果たして彼女は“それだけ”を糧に生きていけるのだろうか。

彼女は恐らく、「冷凍状態から蘇生した奇跡の人間」として世間からは好奇の目に晒されるだろうし、“復活”に特別な意味を持つキリスト教圏では彼女を神聖化、もしくは悪魔の使いとして迫害するかもしれない。

蘇生して戸惑うだろう彼女たちを支えるためにも、蘇生後の人間を守る条例などが必要ではないのか。

同時に、彼女たちに対する精神面や経済面などの援助・人生設計の協力案などが具体的に示されてこそ、初めて人体冷凍保存に託された夢を語る資格ができるのだと筆者は思う。

人体冷凍保存が、莫大な利益を生むのも事実。

アルコー延命財団では年会費に加え、莫大な冷凍保存料(全身で約15万ドル・頭部のみで約8万ドル)がかかるのだ。

冷凍保存された人間の人権や、蘇生後の人生を考えなければ、これらはただのビジネスになってしまうだろう。

この業界は既に、他社(あくまでも非営利団体らしいが…)との価格競争が始まっているようだが、彼等にはそこのところを今一度考えて頂きたい。

ところで冷凍保存されている間、彼等の魂はどこで待機しているのだろう?

みなさんはどうお考えになるだろうか・・・。

 

 

 

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