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【1話】

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朝、今日も一日が始まる。

自慢じゃないが私は寝覚めの良いほうで目覚まし時計なしでも起きる事の出来るタチだ。

ただ今日は少しだけ体が重く指先が冷たくなっている。

今朝方見た夢のせいだろうか?

私と亨が小学生だったころの夢。

亨が昨日おかしなことを言ったせいだ。

いや、おかしくはないのだろう。

おかしいのは私のほうなのかもしれない。

 

「ふああ、おはよう、お母さん。お父さんは?」

寝間着姿のまま台所の母に朝の挨拶をする。

父は居間ですでに食事を終えタバコを一服

「はいこれ、お父さん!相川板金塗装の切り文字『紅葉タクシー』」

「おう、ご苦労さん、ふんふん、さすがはわしの娘。」

「昨日の夕方注文して今朝にはウレタン塗料と一緒にステッカーも届く。」

「せっかちな相川んトコのよっちゃんも喜わい。」

我が家は自動車の塗料を専門に扱う小さな会社を営んでいる。

自社で(主に私が)つくったステッカーを塗料の取引相手にのみ格安販売しているのだ。

これは先代の祖父がはじめたことである。

けっしてうちは看板屋でもステッカー専門の会社ではないのでデザインの凝ったものはお断りしている。

だから痛車とかああいうのは絶対に無理(いつかああいった類いのものも手がけてみたくはあるが)。

○○株式会社とか□□レンタルといった社名やロゴをかたどったもののみ受け付けている。

 

私が小さなころ祖父はどんな複雑な書体でもカッターナイフ1本でステッカーをつくっていた。

私ではできない芸当である。

今はPCに情報入力すればおもちゃのような安価なカッティングマシンが寸分の違いもなく切れ込みを入れてくれる。

かつて職人技を必要としたステッカーも今では女子高生の技量で簡単につくれる結構な時代。

しかしそれを良いことに父はもっぱらこの仕事を私に押しつけてくるようになったのである。

まあ、いいんだけどね!

ちまたのアルバイトよりも少しだけ実入りがいいんだから。

 

「行ってきまーす。」

家を出るとほんの少し回り道をして亨の家に寄って亨と一緒に登校する。

あいつとはもともと幼なじみで亨が不登校になりかけた小学生から頃から毎朝一緒に登校するようになった。

高校2年になった今でも相変わらずその習慣は続いている。

 

亨んちの玄関ではぶくぶく太った猫のタケが鎮座していた。

「おはようタケ。」

タケはナオ~と返事をして足下にすり寄ってくる。

と玄関のドアが開き弟の匡君が顔を出した。

「あ、友紀乃ちゃんおはよう。」

「ごめんな友紀乃ちゃん、兄貴は先にいってもた。」

「えっ?」

どうして?

 

〈つづく〉

 

紅葉タクシー2

次回は9月24日(木)になります。

 

 

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