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「おら友紀乃、ハンカチ持ったか?弁当持ったか?今日も遅くなるんか?浮気してんじゃなかろうな?」

「あー、朝っぱらから子供の前で教育上良くないことは言わないでくれる?」

朝はいつも亨との慌ただしい小競り合いではじまる。

今朝は少し寝過ごしてしまった。

だが容赦なく時間は流れいかに疲れていようが私はこれから職場へ行かねばならない。

この時期は発注が集中し、そして今職場は人手不足。

この時期さえやり過ごせば少しは落ち着くず。

求人募集もかけているのでじき人も入ってくるだろう。

がんばれ!私!

「じゃあね行ってくるね、お父さん、はるちゃん、なっちゃん。」

「おおう、気をつけてな。」

ハイヒールなんてここ最近はご無沙汰。

なじみのローファーに足を突っ込みドアを開けたとたん

もうすぐ4歳になる菜鶴(なつ)の元気な声がマンションの廊下に響き渡った。

「ばいばい、ママ~!また遊びにきてね~!!」

ぎょっとする私に追い打ちをかける亨の言葉。

「あーあ、友紀乃、お前、菜鶴から家族と認識されとらんぞ。」

「や、やだ、なっちゃん、ママは毎日おうちに帰って来ているのよ?一緒に住んでるでしょ?」

いくら早朝出勤をして菜鶴が寝入った深夜の帰宅が続いているとはいえ

幼い愛娘のこの言葉はいささかショックだわ。

「なつ、お母さんはね、これからお仕事なんだよ。だから、いってらっしゃいなんだよ。

お母さんいってらっしゃい、お仕事がんばってね。」

姉の春子に訂正されても全く理解出来ず首をかしげる菜鶴。

ああ、菜鶴のおかげでご近所にあらぬ誤解を受けるのではないかと杞憂しつつ

バス停まで小走りで坂道を駆け下りる私、七戸友紀乃28歳会社員。

そして夫の七戸亨、同じく28歳。

高校卒業後、板金塗装に勤めるも2年前に退職。

現在・・・無職。

そして6歳の長女の春子と3歳10ヶ月の菜鶴。

亭主と幼い子供達を養うために今日もお母さんは働かなければならない。

せわしない現実に押し流される日々。

漠然とした将来への不安。

大丈夫、私?

ああ、やはり私は疲れているのかも。

 

 

<つづく>

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