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2016年 4月1日(金)

今日から美影依子は日誌を付けることにしました。日々、お店のこと、お客様のこと、本のこと、心に留まったあれこれを簡潔に書き留めていく日誌はきっと何かしら役に立ってくれるはず。

 

2016年 4月2日(土)

40代の女性が来店され、義母が亡くなったので所蔵書を処分したいと段ボール3箱分の書籍が持ち込まれました。反射的に「店主は只今出かけております!本は預かっておきますので明日お越しください。」とウソをつく私。店頭に「本をお売りください」「誠実買い取り」などと書いて貼ってはいるもののこんなに多量に本が持ち込まれると私は臆病風に吹かれてしまうのだ。つい先日も買い取り価格に不満を持ったお客さんから怒鳴り散らされたばかり。私に足りないのは風格と威厳と度胸!ああこんな私も歳を取れば少しは威厳と風格が身につくかしらん?

お客さんが退散したあと預かった段ボール箱を開けて本を一冊一冊チェックしていく。自分のこの店でこの本は売れるのかどうか?が私の最大のチェックポイント。本をぺらぺらめくっていると1万円札が7枚も!うわあ。新書と違って古本は持ち主がはさんだものがたまにそのまま残っている場合があるのです。多いのが書店のレシート、飛行機搭乗券の半券、名刺、押し花、人間と言う生き物は本に何かを挟まずにはいられない生き物なのかもしれません。

 

2016年 4月3日(日)

昨日のお客さんが来店され、本に挟まっていましたよと7万円を封筒に入れてお返しする。これにはお客さんもびっくりされたようで「あらやだ、お義母さんたらこんなところにへそくりをしたまま忘れちゃったのね。」と。本もこちらの言い値で応じていただき無事買い取り終了。ついでに私がこのお店の主人だと白状するも笑って許してくだり胸をなで下ろしました。

閉店直前に訪れた瀬戸内稔君にこのお店の定休日はいつなの?と聞かれる。私は他にすることがないので定休日は設けていないんですよと答えると、「じゃあ美影ちゃんはずっとこの店で引きこもり状態ってこと・・・?」とあきれ顔。そんな!自営業というのは仕事とプライベートとの境目がないものでしかも私は出不精。お店出お仕事しているのが一番性に合って楽しいからこれでいいのよね。ところで稔君はどうしてうちのお店の定休日が知りたかったのだろう?

 

2016年 4月4日(月)

学生さんが本を「こんなものでも買い取ってもらえるでしょうか?」と40 年ぐらい前の国鉄時代の時刻表をどっさりと持ってこられました。今はない懐かしい列車、廃線になった鉄道が盛りだくさんの古い時刻表。はい、買い取らせていただきます。実はこういうものを好まれるかたは意外にいらっしゃるのです。

 

2016年 4月5日(火)

朝から雨。こういう日はお客さんは滅多に来ない。思い切って奥の開かずの間の掃除をはじめる。開かずの間とは以前の雑貨店を営んでいた前の借り主さんの頃からため込んでいた椅子やら枕木やら車のタイヤやら捨てる踏ん切りのつかないものをひとつにまとめて放り込んでいる部屋のこと。思い切ってガラスケースと椅子以外すべて処分しようと決心する。

 

2016年 4月6日(水)

初老のご婦人が来店。リハビリ入院のご主人に本の差し入れをするため立ち寄られたらしい。推理小説なんかどうかなと思っていたらご婦人は詩集と大阪万博の写真集を購入。昼から顔を出した多恵さんにその話をしたら年寄りや病人は頭を使ったり字の細かいものは疲れるから推理小説は向かないと言われる。そうか私は健常者の感覚でものを考えていたのかもしれない。多恵さんは入院してヒマをしているなら昭和初期のファッション雑誌なんか読んでみたいという。思い出の青春時代にタイムスリップというわけですね。

お疲れ気味のサラリーマンふう男性が哲学書を2冊ご購入。お疲れ気味の男性が哲学書を求められると言うパターン結構見かけます。

 

2016年 4月7日(木)

『少年少女文学全集』12冊がまとめて売れる。

昭和に発行された文学全集なんて『古本屋らしさ』を醸し出すだけで、どうせ売れないとあきらめていたのにこれは嬉しい誤算。お客さん挿絵を熱心にチェックされていたので挿絵が気に入られたのかもしれない。

 

2016年 4月8日(金)

本の上に鞄を置くお客さんがいらっしゃったのでやんわりと注意すると逆ギレされてしまう。そのうえ今日は100円の文庫本ですら一冊も買ってもらえぬまま一日が終わる。こんな日もあるわよねとため息をつきながらお店を閉める。

 

2016年 4月9日(土)

文庫本を出入り口に移動させたら数冊売れました。文庫本はものすごく古いものか最近出たばかりの新しいものが売れます。純文学はあまり売れません。

 

2016年 4月10日(日)

田所さんが顔を出して例のごとく長話がはじまる。なんでも日本人はやたら初版をありがたがる傾向があるらしい。しかし与謝野亜木子の『乱れ噛み』、伊藤左万夫の『野菊の墓地』は初版3版はあっても2版はほとんど市場に存在せず、もし出てくれば初版より高い値段で売買される可能性があるらしい。田所さんの話はいつも興味深い。これで余計なお説教がなければ言うことないんだけれど。

 

2016年 4月11日(月)

ご近所の『常禅寺』のご住職が来店。顔を合わせるなり「美影さんや、ちゃんと食べているかい?」と聞かれる。あああ、以前うっかり空腹で倒れて以来、すっかり噂になっちゃってそれがご住職の耳にまで入っているとは、ムギュッ!食べています食べていますとも。ご住職は水木アンナ&からし菜ゆみこの「アイス・キャンディ・キャンディ」全6巻文庫セットとジン・ウオツカ料理長の「大正家庭料理シリーズ」全3巻をご購入。子供の頃住職は「アイス・キャンディ・キャンディ」のファンだったけれど「男の子が少女漫画なんて読むものではない。」という周囲の声に負けて手が出せず今になってリベンジならしい。「大正家庭料理シリーズ」は今度お寺で精進料理教室を開くので何かの参考になればとのこと。

 

2016年 4月12日(火)

ご近所で顔見知りの竹井さんが『江戸前蘭歩傑作集・C坂の殺人試験』それぞれ発行年数の違う同じ内容のものを3冊まとめてお買い上げ。

『江戸前蘭歩傑作集』は昭和61年に出版されたものと平成7年、平成15年と冊存在しそれぞれカバーデザインが皆異なりその違いを楽しみために3冊まとめてご購入されるとのこと。とくに平成15年版は竹井さんの好きな丸尾松博という耽美画家が手掛けたものらしい。同じ本を3冊なんて普通なかなか買えるものではないが古本なら一冊150 円と駄菓子屋感覚で買えるのがありがたい、というか普通の書店で三冊同時に年代別のカバーが違う本を見つけることなどないわけでこういうところが古本屋ならではの楽しみなのだと竹井さんはご満悦。竹井さん曰く「僕は丸尾カバーを見れば何が何でも欲しくなる。」

もし丸尾松博関連の書籍が入ったら竹井さんに教えてあげよう。

 

2016年 4月13日(水)

開かずの間がようやく片付きました。空っぽになってスッキリした部屋をながめていると、ここで何かはじめてみたい!なんて気持ちがムクムクとわき起こって来ました。ブックカフェ、読書会、ものづくりが好きな知り合いもいるのでギャラリーを開設してみるなんてどうだろう?

 

2016年 4月14日(木)

田所さんがお店に顔を出したのでさっそく相談してみる。田所さんは何か言いた気だったけれど「とりあえずやりたいことは全部やってしまえばいい。大切なのは経験することだな。」と賛成してくれました。さすが!その矢先「宅買い」依頼の電話が入る。海外出張が決まり本の処分に困っているとのこと。私は車を持っていないのでお客さんの家に行って買取を行う「宅買」はできません。田所さんにこのお仕事譲ろうとしたら「本は折半、うちの車と勇一をよこすからあんたも一度やってみい。」と有無を言わずやらされることになる。当の田所さんはその日は八千草千鶴子のコンサートに行くのだとか。このあとお千鶴さんの良さを延々聞かされることとなる。「宅買」…それは怖ろしい子!その場で本を選別しお客様と交渉し、多量の本を段ボールに詰めて車まで運ばなければならない重労働。しかも勇一君とですか!?大丈夫かしらん?

 

〈終わり〉

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