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「藤井的休日活用法」 藤井 硫

 

今年の二月程から慌ただしくなり、碌に休みも取れない生活がようやく落ち着いた。
普段の生活リズムで行動出来るという事が、こんなにも有難い事だとは思わなかった(同居人とあまり会わずに済んだ忙しい生活も有難かったが)。
まるまる一日何も予定が無いというのが久しぶりであり、何をしようかとまず思いついたのが、創作にだけ一日を費やすいう事だ。
昼間は社会人として働く傍ら(本人が社会人と自覚しているだけで実際は違うかも知れないが)仕事の合間に創作をするには時間に限界がある。
何故かと言えば、現在同居人がおり、私が家事全般をするという不可思議な習慣によって成り立っている(その習慣は同居人の田舎、福井では一般的なのだろうか。福井県民に是非一度聞いてみたい)。よって自宅に帰っても創作をする時間はごく僅かだ。
同居をするにあたって、お互いが出来る事は分担して、負担を減らそうと約束をしたのは記憶にある。ただ私はその時、お互いに出来る事は平等では無いという認識を持っていなかった(こういった事態にならない為にも、口約束とは言え、事前に書面上での確認は大切だ)。
私が出来る事は料理、掃除、洗濯、猫の世話全般となっており、同居人に関しては料理を食べる、掃除をしてる様を見る、洗濯物を出す、猫と遊ぶとなっており、一見して不平等だと分かる。が、本人は至って悪びれる様子もなく、さもそれが当然という顔をするのだ。消費カロリーの面で言えば等しい消費量を保っているかも知れないが、実活動内容は似て非なる物である。
そんな環境に置かれてしまえば創作などする余地が無い事は、誰が見ても明らかであり、決してサボっているとか、スランプを理由にスマホばかり弄くっていたとか微塵もない事が分かる。
根本的に環境を変える事は現実的に難しいが、起き掛けに、友人の家に行ってカンヅメをするという素晴らしいアイディアを思いついたので、早速拓丸氏の自宅に向かう事にした。

電話を掛けると彼も私の事を待ちわびていたのか、ワンコール鳴るか鳴らないかというタイミングで電話出た。素晴らしいアイディアは素晴らしいタイミングの上に成り立っているかも知れない。
「あー、もしもし私だが君は今日何をしているのかね?」
「それは哲学的な質問ですか?そうですね、今日という日を過ごすにあたって茶と犬を」
「いや、そういう事じゃないんだ。ただ君の予定を聞いているだけなんだ」
「予定ですか。それは仕事の予定ですか?私事の予定ですか?実家の予定もありますが生憎僕はそこまで把握していないのでお答え出来かねますが」
「出来かねてもそこは構わないし詳細な予定を聞いている訳ではない。君の自宅に行きたいのだが」
「ならば何も僕に報告をする必要はないじゃないですか」
予想もしていなかった返答に、やはり私のアイディアは間違っていなかった(間違いは他にも多くある)。彼と私は心の面でも通じ合っており、最高の相棒だと言えよう。これは対面した際に精一杯の言葉で称賛しなければ(茶と犬をどうするかについては聞かないであげよう)。
「貴方が勝手に僕の家の前を通る事に、誰が制約を設けますか?幸いにもこの国は個人が道路を歩く権利はあります。どうぞ勝手に歩いてください」
「勿論君の家に向かう際に、私の家の前も歩くし知らない人の家の前も歩くさ。どうも君は私の言葉をストレートに受け取らないね。それになんだね、茶と犬って」
「暇ですから来たらいいですよ」
どうも先が思い遣られてしまうが何はともあれ、様々な知らない人の家の前も歩いて拓丸氏の自宅に向かう事にした(茶と犬については最後まで答えなかった)。

まだ彼の自宅には数回程しか行った事がない為、駅まで迎えに来てもらう事になった。
久しぶりに会った彼は何一つ変わる事なく佇んでおり、私の顔を見ても表情は何一つ変わる事なくそっと右手を挙げた(きっと喜びを表面に出すのが苦手なのか、産まれた時から感情がないかのどちらかだろう)。
「今日は歩きながら歌うのはやめてくださいね」
「あれは私にとって鼻歌のつもりだったのだが、そんなに迷惑になる様な鼻歌だったのかね」
「迷惑というか不快です」
久しぶりに会った喜びを分かち合う様な挨拶を交わし、自宅でカンヅメをする為に食料も買い込み、全ての準備を整えた。後は創作に没頭する時間を向かえるだけだ。

「そういえば、この前面白い動画を見つけたのですよ。藤井さんに是非観てもらいたいと思いまして」
部屋に着くや否や、おもむろにテレビ代わりに置かれているパソコンで、ニコニコ動画にログインすると中年の外国人男性が物凄い流暢な日本語でディープな内容を話す動画を流し始めた。
「藤井さんなら知っていると思いますが」
「ああ、知っているよ。物凄い流暢に日本語を話す中年の外国人だろ。有名じゃないか」
「見たままですね。モーリー.ロバートソンですよ。知りませんか」
流暢な日本語を話す外国人は幾人もテレビで観たことはあるが、生憎日本人以外の人種は全て外国人であるという認識しかない為、個人として名前を覚えた事はない(名前以外で覚えている事があるかも危うい)。
「とにかく黙って観ててください。打ちのめされますから」

私の創作(主に小説に関しての)知識は彼から頂いている事が多い為、今回も創作の糧になるに違いないと思い、大人しく従って動画を見ると確かに打ちのめされた。頭の回転が早いどころの騒ぎでなく、何をどうやったらここまで知識を明確に口から出せるか、私の処理が追いつかない程なのだ。しかし全く話の内容が入ってこないという事もなく、抑揚のリズムが心地が良いので会話の主軸から多少ズレても、違和感なく会話が進んで行くのだ。ラジオのパーソナリティの様に一方的であるが、思わず相槌を打ちたくなる程スムーズで、溜息すら吐きたくなる程だった。成る程、これは確かに打ちのめされる。もっと打ちのめされたのはカンヅメ用に買い込んだお菓子類が気が付くと無くなっていたのと(比例して拓丸氏の腹は膨れていた)、結局何一つ創作作業が進まないまま朝を向かえた事だろう。
結局人に頼っては良い作品など産み出せない事が分かり、また別の手法を考えなければならないという思いに帰結した休日だった。

 

 

 

【ライター紹介】

藤井 硫 (男性)

東京都在住

短編小説とイラストを描いています。
頭の中の妄想を、ほいっと見せる事が出来たらどんなに楽だろう。
イラストとか小説とか見るのに時間掛かるじゃん、だからこれ見てみなよ、な?面白いでしょ?
が出来たらどんなに手っ取り早いだろうか。

でもそれが出来てしまったら創作家いらなくなってしまうよね。
じゃあダメだわ。はい、他の案考えよう。
っていう人間です。

めさき出版SNSにて活動中

 

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