真実の10メートル手前

こんにちは、三畑幾良です。

いやあ、やってくれましたね。「このミステリーがすごい!」前人未到の二連覇! そして年末のミステリーランキングで2年連続の三冠王!

乗りに乗っている米澤穂信の新刊が本日発売されました。

『真実の10メートル手前』は、『さよなら妖精』『王とサーカス』の大刀洗を中心に据えた短編集です。

早速入手して読んでみましたとも。

少し語ります。ネタバレはしませんが、以下はある程度お気をつけてお読み下さいませ。

 

「真実の10メートル手前」

大刀洗の新聞記者時代のお話。作品全体の中でも異色です。

限られたヒントから、目当ての人物の前日の居場所を当てるお話です。

ううむ、これ、大刀洗がやってしまうと、盛り上がりどころが分かりづらいのかもしれない。ワトソン役相手にくっちゃら喋りながら真相に近づいていくことで、何が問題なのかということを読者に分からせるのが普通だと思うのですが、大刀洗はあんまり喋らないし、頭がキレすぎるのだと思いました。

終わってから、ああこんなに見事なミステリーだったのか、と気づく感じです。

最後の場面、何故、大刀洗が安堵したのか、とても気になります。

 

「正義漢」

「さよなら妖精」読者にとってはちょっと嬉しい小品でした。

駅のホーム、よくある迷惑な「人身事故」のはずが……? というお話です。

前半部分の、歪んだ正義感を存分に漂わせたモノローグが最高です。うわあ、と思ってしまいます。

雑誌「ユリイカ」に急遽載せることになったお話という由来ゆえか、ミステリー度合は低めに感じました。

ジャーナリストの大刀洗の苦悩がちらつくお話でもあります。

 

「恋累心中」

高校生カップルの心中事件。センセーショナルではあるが不審ではないように思われたその事件には、まだ真相がありました。

米澤穂信の本領発揮とも言える嫌な事件です。いや、違うな。ミステリーの論理性が「嫌」さを呼びよせざるを得なかったのかも。

「○○心中」といえば、連城三紀彦の『戻り川心中』『夕萩心中』なんかを思い出しますし、米澤穂信も恐らくそれを意識して書いているはずです。心中はどこまでいっても結局心中なのだけど、やはり残った意外な真相。

心中もの(というジャンルがあるとして)の可能性を感じる作品です。

 

「名を刻む死」

老人の孤独死を扱ったお話。孤独死は孤独死であり、殺人でも何でもないのだけど。

タイトルの意味が分かった時、ああ凄いなあと思いました。そっちか!と。迷惑な老人のあまりなささやかに思える願い。

この小説はある男子高校生を中心に据えて語られますが、だからこそ最後の大刀洗の一言が冴え渡ります。

三人称の小説の巧みさを感じる小説です。つまり、第三者的視点から見ているつもりでいて、いつの間にか読者は中心の高校生と同じ感じ方をしてしまっているのです。

 

「ナイフを失われた思い出の中に」

私は『蝦蟇倉市事件』を読んだことがあるのでこの作品のみ既読。

少年が幼い姪を刺殺したという事件について、大刀洗が調べています。

これまた、『さよなら妖精』読者には嬉しいお話です。

暗号もので、この状況でこんなことを書くか?という疑問はあるものの、巧妙に書き上げられた作品。

事件の真相よりも、大刀洗が発する言葉の意味の方が気になりました。

 

「綱渡りの成功例」

これまたタイトルが秀逸です。

大雨による土砂災害から生還した夫婦にまつわるちょっとした謎。

ある意味「日常の謎」と言っても良いのかもしれません。

大刀洗のジャーナリスト業の危うさを淡々と表現した作品でもあります。

 

と、まあ、こんな感じです。

私は、「名を刻む死」「綱渡りの成功例」が好きです。

「正義漢」はちょっと違う気もしますが、どの短編も、ミステリーの大切なところを丁寧に扱った作品だと思います。米澤穂信という作家さんは、面白い作品でもちょっとイマイチな作品でも、本当にミステリーが好きなんだ、ミステリーって面白いんだ、ということをビシバシ伝えてくださる方だと個人的には思っています。

本短編集の作品はどれもフーダニットでない分、ちょっと地味で、盛り上がりどころを逃してしまうとしんどいのが難点ではありますが、ああそういうミステリーなのか、と感じ入りながら読む愉しみがあり、またベルーフシリーズ(大刀洗が出てくるシリーズ)のキャラ萌え的な楽しみがあり、なかなかに美味しい一冊です。

『さよなら妖精』『王とサーカス』を読まれましたら、ぜひこちらも!

 

(三畑幾良)

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